白痴女お照に狼藉せんとした风间一角道场の荒くれ侍を、一瞬のうちに斩って舍てたのは、今井宿から流れて来た狼之介だった。その目の前を三つの唐丸驾篭が通りすぎた。一つは幕府金鉱桧笠山见廻り役を斩ったという孙兵卫、一つは江戸の怪盗黒猫の鬼八、最后の一つは鬼あざみのお莲が乗せられていた。狼之介は大きな兴味をもって、唐丸驾篭の后を追った。不敌な面魂の孙兵卫が、寻常の遣い手でないことを知ったからだ。そのため桧笠山の麓で孙兵卫を袭った刺客の一団を追いちらしたりなどした。廃坑となって舍てられた桧笠鉱山で、この孙兵卫と甚六という山师が、砂金の鉱脉を発见し、孙兵卫が见廻り役を斩ったのも、この秘密があったからなのだ。甚六は必ず孙兵卫を助けると约束しながら、刺客を放って砂金の一人占めを図ったのであった。一方、风间道场の主一角は、狼之介に果し状をつきつけた。狼之介は孙兵卫の驾篭に铗を投げこみ、一角の指定场所に去った。决闘の末、一角を倒したが、甚六一味に捕えられた。そして、孙兵卫を杀すべく唐丸驾篭を袭った。だが、孙兵卫とお莲は逃れ去った。捕えられた狼之介はカラス谷の大木につるされた。その狼之介を救ったのは白痴の娘お照だった。お照は甚六の娘だが、必死に坚い縄目をかんでほどいた。そのお照の姿は美しく狼之介の目に映った。甚六のかくれ小屋に现われた狼之介の前には、里切りへの复讐、黄金へのすさまじい执念に青白く燃えて、幽鬼のような孙兵卫の姿があった。甚六を斩り、その情妇お辰を斩り、甚六の息子一郎太、三郎太を斩り裂き、狼之介の制止の声も耳になくお照までも斩った。狼之介は怒った。孙兵卫は狼之介によって倒された。铅色の空に影さす魔の山、桧笠山は、狼之介という无頼の浪人を主人公にして、赤裸々な人间模様を血で描いてみせたのであった。